巻頭言

都市の陰鬱を超えて

――いま場所の批評はどこにあるのか

左藤青+松田樹

コロナ禍、「メタバース」流行、東京オリンピック、オンライン会議の普及、戦争、元首相殺害…この数年の世界の動向は、私たちの住む「空間」や「場所」そのものの著しい変化としてとらえられるでしょう。そこで私たちはあえて問います。

「いま、なぜ空間は退屈か?」

『近代体操』創刊号では、そのような空間そのものを主題としています。「近代体操」発起人の左藤青と松田樹による巻頭言では、マーク・フィッシャーの批評ならびにローラ・オールドフィード・フォードのドローイングを出発点として、空間そのものを語るための条件を探ります。

とりわけ本書で着目するのは、都市を支える不可視のインフラ――「バックヤード」――です。食料や衣類といった日用品から果ては電力(原発によって賄われる)まで、都市生活は「外部」に依存していますが、その外部性や流通経路は多くの場合隠匿されており、消費者はそれを意識することがありません。

左藤と松田が要請する「あえて全体を語ろうとする〈野蛮〉」としての批評は、不可視の機構を探りあて、生活の条件への思考をはじめることを意味します。 そのとき、たんなる抽象的思弁でも具体的なケーススタディでもない「普遍性」の陽光が垣間見えるでしょう。

創刊号のテーゼとなる巻頭言です。